パリ国立高等音楽院 Conservatoire national supérieur de musique et de danse de paris

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阿部俊祐 ABE SHUNSUKE

専攻
音楽・作曲

学歴
2011 パリ国立高等音楽院作曲科第一課程
2009-2011 東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了
2005-2009 東京藝術大学音楽学部作曲科卒業
作曲を、四反田素幸、小山薫、浦田健次郎、野平一郎、ジェラール・ペソンの各氏に師事。

受賞歴
2012 第22回芥川作曲賞ノミネート
2011-2012 ロームミュージックファンデーション奨学生
2010 野村学芸財団奨学生
2010 第17回奏楽堂日本歌曲コンクール作曲部門中田喜直賞の部、優秀賞
2010 第8回TIAA全日本作曲家コンクール室内楽部門2位(1位なし)
2010 同上コンクール歌曲部門審査員特別賞
2010 京都フランス音楽アカデミーにてメシアン賞受賞
2008 安宅賞

 

01.留学までの経緯

「留学を志したきっかけは?」

もともとフランス音楽が好きで、藝大在学中は特にラヴェルやデュティユー、ブーレーズあたりに私淑していました。大学院に入ってから師事した野平一郎先生からも影響を受けました。フランス音楽が持つ繊細で色彩豊かな音楽が、どのような所で生まれ、何がフランスの作曲家達に影響を与えたのか、直に感じてみたいと思うようになり、大学院1年の時に留学を決意しました。外国に一度も行った事が無いというコンプレックスもあったと思います。それまでは自分が留学するなど、微塵も想像していませんでした。

 

「本格的に留学を計画し始めたのはいつですか?」

大学院1年になって割とすぐ留学を決意し、即準備にかかりました。具体的には、留学先の情報収集、語学、金銭面での計画です。それまで外国にいった事が無かったので、パスポートの申請、留学に必要なビザ等の公的手続きについての情報収集もしました。

 

「留学先に当該機関(大学等)を選んだ理由は?」

パリにある音楽学校といえば、そこしかないだろう! という安直な理由が大きいです。数年前に、とあるコンサートでパリ国立高等音楽院(CNSM)教授のステファーノ・ジルヴァゾーニの作品を聞き感心したことがあったので、彼の下で勉強したいという思いも少しありましたが、結果的に門下人数の関係で違う先生になってしまいました。また、第一課程に進学した理由は、単純に語学が間に合わなかったためです(第二課程に進むにはDELFのB2必須)。

 

02.留学の準備

「情報収集」

情報収集をするにあたり、当時私の周りには歳の近い作曲科出身の人でCNSMに留学した人が全くいなかったのと、フランス語もそれまで一度もやったことが無かったのでホームページを見ても何も分からず、大変苦労しました。出願方法や試験内容等、野平先生やテシュネ先生に助言を頂いたり、器楽で実際に留学している人に話を聞いたりしました。とにかく少しでも詳しい人に話を聞く事です。そうすれば自然と人脈も広がっていき、入試に必要な手続き、具体的な試験内容やその準備等といった、様々な情報が集まってきます。CNSMは出願をネットで行い、料金の支払いが外国送金だったりと日本の大学と勝手が違ったので少々困惑しました。

大学院1年の時には、少しでも留学前にフランスの感じに触れたいと思い、京都フランス音楽アカデミーの作曲コースを受講しました。後々、その時に講師としていらっしゃっていたアラン・ゴーサン氏(ローマ賞受賞作曲家で、CNSM出身。現在はCNSMとは別の学校等で教えてらっしゃいます)に、CNSMの入試直前に何度かレッスンをして頂くことになったのですが、この講習会での出会いがなかったら実現しなかったと思います。その講習会では大変興味深い講習を受けられたので、一層フランスに行く決意が増しました。

 

「語学の学習法は?」

それまでフランス語を勉強したことなど一度もなかったので、大学院1年の時にゼロからスタートしました。まずNHKのラジオ講座で文法を中心に独学で始め、最終的には語学学校に通いました。語学学校では、会話クラスを中心に履修しました。文法や単語等はほとんど自分でやり、分からないところを語学学校でフランス人教師に質問する、という方法をとっていました。最低でも30分、毎日欠かさずやりました。第一課程に入るにはDELFのB1の資格が必要なので、そのレベルに達するよう大学院の2年間、かなり必死にやりました。

 

「生活費の確保・実生活」

留学するにあたり一番大きな問題がお金です。藝大時代から日本学生支援機構のお世話になっていた私ですから、当然自費で留学など出来るはずもありません。それに、これ以上親のすねをかじりたくありません。留学に耐えうる生活費の現実的な確保について考えるにあたり、私はまず留学経験のある音楽家や学生、特にパリに留学している人で、自分の希望する進路と似た道を歩んだ人のプロフィールを手当たり次第調べ比較しました。すると、いくつか有名な奨学金の存在が浮き上がってきました。大きなもので、ロームミュージックファンデーションと文化庁の新進芸術家海外研修制度、この2つです。月30万貰えて返済不要です。あとは、その奨学金を運営している財団や文化庁などのホームページで、審査内容から申し込み手段を調べ、実際に受給している人はどういったキャリアを積んでいるのかといった情報を集めました。

現地での家探しは、留学を終えて日本に帰国する人と入れ替わりに入るのを狙うとよいです。もしあなたが留学を希望しているのなら、早めに現地にいる人と連絡を取り、そういった情報を集めておくとよいでしょう。入れ替わりですぐ入ってくれた方が大家としても助かりますし、なにより日本人は部屋をキレイに使うので、日本人居住者を望む大家は多いそうです。

 

CNSM外観
CNSM外観

 

 

(左)CNSMで一番大きいスタジオです。(右)電子音楽スタジオ。スペックが低いので頻繁にフリーズします。
(左)CNSMで一番大きいスタジオです。(右)電子音楽スタジオ。スペックが低いので頻繁にフリーズします。

 

03.留学中

「教育内容、教育環境」

CNSMの出席は絶対です。日本の大学は授業がつまらなかったらその単位は捨ててサボっても何も言われませんが、CNSMでは欠席がある一定回数に達すると自宅に教務発行の警告書が郵送されてきます。また、その生徒が履修している授業の先生全員に、警告書のコピーが送られます。その警告書が3回来ると、強制退学にさせられます。なので、いくら興味がなくてくだらないと感じる授業だからといってサボっていると、大変なことになります。

CNSMは所謂「大学(universite)」ではありません。音楽芸術を保全し継承する国営の「文化保全機関」です。そこに入学するということはすなわち、そこの施設で教育を受けるという「契約」を結んだことと同義に扱われます。また、CNSMの在学生(国籍問わず)のほとんどが、CNSM入学の前に地方音楽院で1~2年勉強してから来ているようです。私のようにいきなりCNSMに来る人は、かなり珍しいケースのようです。

なお、これから述べる事は、CNSMの「作曲科のみ」に関する、私自身が思った事です。他の器楽科などに関する内容ではありませんので、ご注意ください。

◎電子音楽(毎週月曜、9時~16時 日によって時間変更有り。2年目からは+火曜9時~11時)

◎音響学(木曜、9時~12時)

◎オーケストレーション

◎フランス語(週1で1時間半、レベル別にクラス分け)

◎作曲実技(週1、門下によって時間やスタイルは様々)

 

クリスマスミサをサン・シュルピス教会で。
クリスマスミサをサン・シュルピス教会で。

 

「留学の意義」

私はなんだかんだCNSM、いや、パリに居続けています。それは、留学というのは学校が全てではないという思いがあるからです。一歩学校を出ると、そこはやはりパリ。街自体は吸い殻と犬の糞とスリだらけでとてもキレイとは言えませんが、質の高い演奏会、美しい美術と建造物、芸術が根付いた街(逆に日本のようなサブカルはほとんどゼロですが)、フランス人との人間味のあるやるとり(イラッとする事の方が多いですが)、バカンス中にヨーロッパ中を駆け巡れる身軽さ、宗教とは何か、人種とは、差別とは、文化の違いとは何か。日本とは何か、祖国への愛とは何か、そういったことを改めて考えさせられたり…。それら全てが留学経験だと思います。学校の外で感じたことの方が、私自身を成長させているような気さえします。そういった体験は、やはり日本に暮らしているだけでは分からないものだったでしょうし、旅行で来るよりも実際に暮らさないと見えない部分もあると思うので、良い経験になっています。

私は26歳でこちらに来ましたが、もっと感受性の豊かだった若い時に来ていたら、もっと感動したのだろうと思います。私の場合、大学院を出てから第一課程(日本で言う学部に相当)に来た事が、進路選択として全く正しかったとは言いにくいのです。院まで出てしまうと、また同じような勉強を1から繰り返すということに抵抗を感じてしまう部分がありますし、歳もそこそこいっているので、これからの人生について考える部分も大きいです。私は、留学中に親の健康に問題が生じたり、私の関心が次第に現代音楽から離れてきたという変化もあったり、30歳を手前にしてまだ学生ということに抵抗も感じたり、今でも続けている日本の仕事と勉学の両立が難しかったりと、現実的な問題が生じてきて、100%有意義な留学とは言えないかもしれません。実際CNSMの第一課程にいる学生は、ほとんど私と同じくらいの歳の人(25~28歳)が多いのですが、やはり私と同じような問題を抱えていたりする人も少しはいて、途中で退学する人も珍しくありません。私はパリに長くいるつもりはなく、なるべく早めに日本へ帰国するつもりです。留学は、自身も親も健康で、時間的余裕のある若いうちに早めにしたほうが良いと心から思います。また、勉強の進度的にも、学部を出てから来るのが丁度良いと思います。院を出てからなら、第二課程(入試は難しいですが)という選択肢も考えた方がいいかと思います。留学に年齢は関係ないと言う意見もありますし、長く学生として勉強を続けるという生き方も良いと思いますが、私のように現実的な生き方を選ぶ人もいるということ、それも決して間違いではないという事を申し上げておきたいです。

繰り返しになりますが、これはあくまで作曲科で私個人が感じた事です。器楽で留学しに来ている人は、私よりずっと若い人がほとんどですし、高校卒業後すぐ渡仏したり、学部の途中で休学または途中退学してこちらに来た人がほとんどで、CNSMに満足している人が大半です。

 

街中に突然アートが現れる。それがパリ。
街中に突然アートが現れる。それがパリ。

 

(2013.1.26)

 
夕暮れ時のノートルダム大聖堂。
夕暮れ時のノートルダム大聖堂。

 

※学外へは一部を抜粋して公開しています。